残された遺産が株式だった場合:ドラマ「遺産相続弁護士 柿崎真一」にみる法律の豆知識

遺言書を受け取ったら行うべきこととは?

藤堂ホールディングスの社長・藤堂宗次は、自らの死期が近い事を悟り、愛人の水谷美樹に遺言書を送りました。

柿崎と美樹は受け取った遺言状の中身を、船上で二人で確認しました。

「遺言書を開封する」というと、親戚一同が揃ったところで弁護士が開封し、おもむろに内容を読み上げる、という場面が思い浮かぶ方も多いと思われます。遺言書はあのように、相続人が集まる場所で開封しなくてはならないのでしょうか?

直筆で書かれた遺言書の場合は、開封しても問題ないパターンと、開封してはいけないパターンの2通りに分けられます。そして、そのポイントは遺言書の封印の有無になります。

遺言書が封印されていたとしたら、家庭裁判所で開封しなくては罰金が科せられます。しかし封印されていなかったとしたら、中身を見ても法的には差し支えありません

この場合の「封印」とは、封じ目に印を押すことです。遺言書が封筒に入っていて糊付けされていたとしても、押印されていなかったら、封印されているとはいえないことになります。宗次の遺言書の封筒には、見たところ押印がなかったようなので、柿崎と美樹が、奥さんや娘のいないところで開けてしまっても、問題はないでしょう。

ただし、封印があっても無くても、開封してもしていなくても、直筆の遺言書は、家庭裁判所で検認と呼ばれる手続きを行う必要があります

検認とは、家庭裁判所が遺言書の存在および内容を確認する手続きのことです。公正証書遺言(公証役場で公証人に作成してもらう遺言書)の場合は検認は必要ありませんが、それ以外の場合は、遺言書に検認済証明書をつけてもらわなくては、不動産の相続登記や銀行の口座の名義変更などができません

美樹が宗次から贈られると書かれていたものは「宗次が所有している藤堂ホールディングズの株」。株を美樹名義に変更するために、検認済証明書は必ず必要になります。

個人の相続、会社の相続

美樹がもらう藤堂の会社の株は、推定総額50億円と見積もられるものであったため、美樹は大喜びします。

現金をもらったのであれば、受け取って納税を済ませたら相続は完了となりますが、大量の株式を相続したとなると、その後の会社に関する権利も関わってくることになります。

美樹の受け取る株は1万株で、藤堂の会社の発行株式数は3万株。保有する株式の割合は1/3になります。

通常、株式には議決権が付与されています。議決権とは株主総会での決議に参加し票を入れることができる権利のことで、一般的には1単元株に対し1つの議決権があります。(会社によっては議決権のない株式が発行されている場合もあります。そういった株式を保有しても、議決権は行使できません。)

議決権の保有数に応じて、会社に対する様々な権限を行使できるようになります。

議決権保有割合と、その権限

  • 1% 以上保有
    総会検査役選任請求権
  • 3% 以上保有
    総会招集請求権、役員の解任請求権、業務財産検査役選任請求権、会計帳簿閲覧請求権
  • 10% 以上保有
    解散請求権
  • 25% 以上保有
    相互保有株式の議決権停止
  • 33% 以上保有
    株主総会の特別決議を単独で阻止できる
  • 50% 以上保有
    株主総会の普通決議を単独で阻止できる
  • 50% 超保有
    株主総会の普通決議を単独で成立させられる
  • 66% 以上保有
    株主総会の特別決議を単独で成立させられる

このように、議決権の保有割合の大きな株主には、大きな権限が与えられます。今までその会社と一切関わりがなかった人であっても、相続によって大量の株式を得ると、会社の経営に口出しができるようになるわけです。

企業を経営されている方の相続の場合は、株式を誰に相続させるかということを遺言などで明確にしておかないと、会社の経営が思わぬ事態に発展する可能性があるので、注意が必要です。

拒否権の種類

ドラマの中では詳しく述べられていませんでしたが、33%以上を保有する株主は、直接的に社長(代表取締役)の選任を拒否できるわけではありません。

33%以上の保有者が拒否できるのは、株主総会の特別決議です。 特別決議が必要とされるのは、合併・会社分割・株式交換・株式移転の組織再編、事業の全部譲渡、監査役の解任などになり、その中には取締役の選任や解任は含まれていません。

取締役の選任は株主総会の普通決議で決定され、それに関する拒否権は50%以上保有する株主の権限となります。(取締役会で代表取締役を決める会社と、株主総会で代表取締役を決める会社がありますが、藤堂の会社がどちらかは不明です。)

しかし、単独では代表取締役の選任を拒否できないとしても、33%の筆頭株主の意向というのは、大きな影響を与えることになるのは間違いないでしょう。

会社の単独支配のために殺し合い

遺言書のことを知らない宗次の後妻の藤堂美樹と、藤堂留美子は、会社を単独で支配するために、邪魔な相手を消してしまおうと画策していました。

藤堂宗次が生前に所有していた全株式は15400株で51%超。藤堂美樹と留美子はそれぞれ2300株ずつ保有しており、遺言がなければ、7700株ずつ相続して、それぞれが1万株保有することになるはずでした。

33%以上保有する株主が2人いて、お互いが対立していたとしたら、会社経営上の重要な事項を決める事が困難になります。

しかし相手が消えてくれれば、宗次の全株式を相続することが出来るだけでなく、義理の母娘という関係上、お互いも相続人となるため、1人で66%の株式を保有できることになり、ほぼ完全に会社を支配できることになります。

まず最初に藤堂美樹が、留美子を殺害して柿崎を犯人に仕立て上げる計画を練りましたが、それに気付いた留美子が、その計画を逆手に取って、藤堂美樹を殺害して柿崎に罪をなする計画を実行しようとます。

結局その両方が失敗に終わり、2人は相続人を殺害しようとした事によって相続欠格となり、相続権を失いました

遺言の不備

水野美樹に株を相続させると書いてあった遺言書には、記載ミスがありました。藤堂の会社の名称は「藤堂ホールディング」なのですが、「藤堂ホールディング」と書いてあったのです。

藤堂の弁護士から、そのため遺言書は無効であると告げられ、美樹は肩を落とします。

ドラマでは株をあきらめて終わっていましたが、水野美樹が株を入手できる可能性はゼロではないと思われます。

藤堂の遺言書には、こう書かれていました。
「私、藤堂宗次は、私が所有する藤堂ホールディングズの株、壱萬株を水谷美樹に相続させる。」(後半に但し書きがありましたが、割愛します。)

この文面からは、自分の会社の株を水谷美樹に相続させようとしていた、と推察できます。それに比べると、ホールディング「ス」を、ホールディング「ズ」と書いたのは、単純な誤りであるように見受けられます。このような遺言であれば、宗次が本当は水野美樹に遺贈するつもりがなかったという証拠が出てこない限り、裁判を起こせば、勝てる可能性はあるといえるでしょう。

実際の相続の現場では、公正証書遺言など、法律の要件を満たしている遺言が出てきたとしても、遺言作成時に認知症であった疑いがあるなどとして、裁判に発展する事も少なくありません。

遺言が出てきたけど、内容に疑問がある場合や、本物かどうか疑わしい場合などには、弁護士に相談してみることをおすすめいたします。


​この記事は 2016年09月07日 に公開されたのものです。

記事の正確性には細心の注意を払っておりますが、記事公開後の法改正やガイドラインの変更などの影響により、記事閲覧時における最新の情報とは異なる内容である可能性があります。

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