亡くなる直前に入籍した場合の相続:ドラマ「遺産相続弁護士 柿崎真一」にみる法律の豆知識

遺言状を勝手に開けると罰金が

7月7日夜11時59分からスタートした、木曜プラチナイトドラマ「遺産相続弁護士 柿崎真一」。主人公は、かつては辣腕弁護士だったが、2年前とあるトラブルで処分を受け、膨大な借金を抱えるらしい柿崎真一(三上博史)。

物語冒頭で柿崎は、ガールフレンドである歯科医の水谷美樹(酒井若菜)からの頼みで、お墓の中から1通の封筒を掘り出します。それは「遺言書の隠し場所を見つけたら遺産をあげる」という老人からの、美樹宛ての遺言書でした。

遺言書を開封して中を確かめようとする水谷に、柿崎は思わず声をもらしました。遺言は裁判所で検認を受けなくてはならず、封印された遺言書を勝手に開封すると、5万円以下の罰金を課されるのです。

遺言書の変造をすると、相続の資格を失います

遺言書には、美樹に全財産を譲ると書いてありました。彼女はその時、自分の名前が一文字間違っていることに気付き、誤りに×印を入れて隣に正しい自分の漢字を書いてしまいます。

柿崎は、それを見て「終わったな…」と一言。民法により「受遺者(遺言で遺贈を受けることを指定されている人のこと)が遺言書を変造した場合、相続欠格とし、その地位を失う」からです。

6時間だけの「妻」でも、法定相続人に?

柿崎と、柿崎の法律事務所「ラストリクエスト」の新米弁護士である丸井華(森川葵)は、新聞の訃報欄で得た情報から、資産家と目星をつけた山岸秀雄の葬儀に営業に出向きます。
喪主の山岸の娘、倫子(紫吹淳)に声をかける柿崎。「相続のことならなんでもご相談を」と柿崎は言うが、倫子は柿崎を怪しみ警戒します。そこへ喪服姿の立花淳子(奥菜恵)が現れました。血相を変えて「元町の泥棒猫が!何しに来たの!」と怒鳴る倫子。それに対し「なによ、こんな葬儀!妻の私は認めないわ!」と淳子。二人のケンカはもみくちゃの泥仕合に。

実は淳子は山岸が通っていたクラブのママで、山岸が亡くなる6時間前に入籍した“6時間妻”でした。

柿崎が遺産相続専門の弁護士と知った淳子は、柿崎の事務所に立ち寄ります。「何と言われても法律上は私が秀雄さんの正妻。遺産の3億のうち、半分の1億5千万円を受け取る権利があるはずよ」と柿崎に相談します。

たった6時間とはいえ、入籍していればれっきとした相続の資格をもつ法定相続人です。山岸の相続の場合、配偶者である淳子と子である倫子の2人が相続人です。配偶者と子供が相続人となる際には、配偶者は遺産の1/2の法定相続分を有するため、淳子の主張は法的にはおかしくありません。

婚姻無効を主張する娘

柿崎と華は倫子のもとへ話し合いに行きますが、「きっとパパは意識のない中で無理やり婚姻届を書かされたのよ。当事者間に婚姻の同意がないなら婚姻は無効よ」と倫子は主張。

確かに、婚姻の当事者間に婚姻をする合意があることが婚姻の要件であり、当事者間に婚姻意思がないとき、その婚姻は無効となります。

相続放棄は、口に出すだけでは効力を発しません

結局、クラブママの淳子は心から山岸を愛しており、二人の愛の証としての結婚と、その結果としての遺産相続にこだわっていただけでした。

「遺産目当ての6時間妻」「疑惑の女狐」としてマスコミに報じられ、世間の注目を浴びた淳子は、記者会見を行い、そこで自分の気持ちを打ち明けるとともに、相続放棄を宣言します。

それを聞いて、淳子を抱擁する倫子。ドラマとしては見せ場の一つでしたが、マスコミの前で宣言をしただけでは、相続放棄の効力は発生しません。山岸の死から3ヵ月以内に淳子本人が裁判所に申述をして、受理をされる必要があります。淳子が相続放棄を宣言しても、申述を期限内に行わなかった場合は、放棄をしたことになりません。倫子が本当に安心してよいのは、相続放棄が受理されてからになります。

遺贈された「入れ歯と手紙と鍵」

入れ歯

山岸は生前、淳子とキスをするときに恥ずかしいからと、総入れ歯をインプラントにする治療を受けていました。そして、その入れ歯を淳子に遺していたのです。

淳子が遺産放棄を宣言した会場で柿崎は、倫子に「その入れ歯を遺品として淳子にいただけないでしょうか?」と問いかけ、倫子は快諾します。

その入れ歯を納めていた箱の中には、手紙と鍵も入っていました。

山岸は30ほども年の離れた淳子の愛を信じきれず、淳子を試すために3千万円を預かり「運用に失敗した」と伝え、隠し持っていました。実際にはその3千万円を上手に運用して3億円に増やし、淳子のために金庫に保管していたのです。

手紙の中には、淳子への愛とお金の事で嘘をついていたことへの謝罪、そして金庫の口座番号が綴られていました。

相続放棄しても、遺贈は受けられる?

柿崎は「入れ歯を遺贈されたので遺産を受け取る権利が発生する」と伝え、自身の報酬を差し引いた残りの金額を淳子に渡します。

淳子が法的に相続放棄を済ませていたと仮定して、遺贈された遺産を受け取ることは可能なのでしょうか?結論から言うと、可能です。

相続とは「なんら手続きを経ることなく当然に」遺産が相続人に引継がれることをいいます。対して遺贈とは、被相続人が遺言書を書くことによって遺言で相続人へ相続財産を与える行為のことです。

相続の放棄と遺贈の放棄は別もので、民法でも別の条文で規定されています。

相続放棄をしたからといって、遺贈を放棄したことにはなりませんし、逆に、遺贈を放棄しても、相続放棄をしたことにはなりません。

遺贈には、法的に有効な遺言が必要です

遺贈は「遺言によって」なされるものです。しかしドラマで出てきた手紙は、遺言として有効と認められる形式を満たしていそうにはありませんでした。

手書きの遺言は直筆遺言証書と呼ばれ、書いた日付を記載する、押印をするなど、民法によって定められた形式が守られていなければ、効力を発生しないのです。有効と認められない遺言であれば、そこに書かれていた遺贈も成立しません。

その3億にしても、そもそもの運用資金が淳子のお金であることから、山岸の「遺産」にあたるのだろうか、という点にも疑問が残ります。

細かなところで気になる点もありますが、テンポのよいコメディタッチのドラマで、劇中で法律の条文が引用されるところなどは、きちんとポイントを押さえられてあります。相続に関心のある方にとっては、興味深く見ることができそうなドラマだといえるでしょう。


木曜プラチナイトドラマ「遺産相続弁護士 柿崎真一」 公式サイト

http://www.ytv.co.jp/kakizaki/

※公式サイトを開くと、音が出ます。音を出したくないときには公式サイトは開かないよう、ご注意ください。


​この記事は 2016年07月19日 に公開されたのものです。

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